名刀美女丸

『名刀美女丸』(溝口健二/1945年)をDVDで見る。繰り返し刀を打つシーンは、これ劇場でみて大丈夫なのか?と思うほどの閃光で目がチカチカする。『砂漠の鬼将軍』の空爆くらいチカチカする。
ベルさん(撮影時28歳)は着物を縫いながら、くだらぬ心配を問いただしに近う寄る清音にパスッと竹刀一発、間があって、プッと笑う。仇討ちものとはいえ、このシーンのベルさんは茶目っ気たっぷり。

この作品も美術考証は甲斐荘楠音。清音と笹枝が再会する夜道や討ち入り、終盤の殺陣の場面は凝っているし、ベルさんの幽霊にもおったまげる。おどろおどろしい感じではないけれど。

1945年は終戦の年。物資不足でフィルムは配給制となり、一時間前後の映画しか作れなかった時代。ひたすら刀を打つ『名刀美女丸』(2月公開)も、ひたすら矢を射つ成瀬の『三十三間堂通し矢物語』(6月公開)も90分に満たない時代劇。

主人公の愚図りと挫けのリアリズムと、一方でスターである山田五十鈴長谷川一夫のヒロイズム。ヒーローものの典型、お約束。こういうことはずっと変わらない。戦意高揚(プロパガンダ)でも、映画の高揚感でもある。

舌をペロッと出すほどの茶目っ気ではない。ではないにせよ、山田五十鈴がプッと笑う1シーンが今ずっと頭の中を回り続けている。